はじめに
現代のデータ処理では、リアルタイム性と効率性が求められる中、ストリーミング処理とデータベースの統合が重要な課題となっています。本記事では、ストリーミング環境における増量ビュー保守(Incremental View Maintenance, IVM)の概念と、Apache Calciteを用いた実裝方法について解説します。特に、Zセット(Z-set)モデルやDbsp言語の特徴を踏まえ、増量計算の実現方法とその技術的意義を掘り下げます。
増量計算とビュー保守の基本概念
増量計算の原理
増量計算は、データの変更を直接処理することで、全體の再計算を避けて効率を向上させます。データベースではこれを「増量ビュー保守」と呼び、データベースをストリーム処理システムとみなして、トランザクションストリームとビュー変化ストリームを処理します。これにより、データの挿入や削除といった変更を継続的に処理し、リアルタイムな結果を維持できます。
ストリーミングの特性
データベースの変更はストリームとして扱われ、ビューの変化も同様にストリームとして処理されます。これにより、IVMは本質的にストリーミング処理であり、一括処理ではなく継続的な変更処理が可能になります。
Dbsp言語と増量計算モデル
Dbsp言語の特徴
Dbsp言語は、増量計算を実現するためのシンプルなストリーミング処理言語で、以下の4つの操作子を含みます:
- ストリーム(Stream):時間軸に沿った無限のデータ列
- 変化操作:加算(+)と減算(-)を含む操作
- ゼロ(Zero):変化がない狀態を表す
- ストリーム操作子:マップ(Map)、データフロー図(Data Flow Graph)など
キャスト操作子
- Delay(遅延):前回の狀態を記憶し、メモリ機能を実現
- Integrator(積分):変化ストリームを元データストリームに変換
- Differentiator(微分):元データストリームを変化ストリームに変換
- 逆操作:IntegratorとDifferentiatorは逆操作として相互に機能
データベースのストリーム処理としての位置づけ
トランザクションストリーム
データベースの変更(トランザクション)はストリームとして扱われ、それぞれのトランザクションがデータベースの狀態に変化をもたらします。
データベース狀態ストリーム
データベース自體はトランザクションストリームの積分結果であり、データベース狀態 = トランザクションストリームの累積です。
ビューのストリーム処理
ビューはデータベース狀態ストリームにクエリを適用した結果であり、ビュー変化ストリームはビューの増量バージョンを表します。Differentiatorを適用することで、変化ストリームを直接取得できます。
増量クエリの実裝
増量クエリの特徴
- 狀態性:內部狀態(例:Delay操作子の記憶機能)を維持
- 組合性:複數の変化処理フローを連結可能
- 効率性:変更部分のみを処理し、全體の再計算を迴避
Apache Calciteの活用
プロトタイプ開発
Apache Calciteを用いて、SQLクエリを増量バージョンに変換するプロトタイプを開発しました。Zセットモデルを採用し、データベース表を抽象化して加算(+)と減算(-)操作をサポートします。
Zセットモデルの特徴
- 重み(Weight):各データ行の重みは整數で、正數は存在、負數は削除を表す
- グループ操作:すべてのSQL操作子(選択、投影、結合、集約など)をZセット操作に変換可能
- 線形/雙線形特性:効率的な増量計算を実現
技術的貢獻と今後の展望
理論的貢獻
Dbsp言語とZセットモデルを提案し、SQLクエリを増量バージョンに変換し、その正しさを証明しました。
実踐的応用
Apache Calciteを用いて、ストリーム処理による増量計算を実裝し、データベースの変更検出(CDC)とリアルタイムビュー更新を支援しています。
今後の展望
ストリーム変更フォーマットの標準化や、データベースサービスによる継続的変更通知の導入が推奨されています。
Zセットと増量計算の詳細
Zセットの特徴
- 伝統的なデータベースをZセットに変換し、増量計算を可能に
- Zセットは重み付き多重集合で、各行の重みは整數(正負を含む)
- 加算と減算操作をサポートし、可換群の構造を形成
- SQL操作子(選択、投影、結合など)をZセット操作に変換可能
増量計算の最適化
- 重複除去(distinct)や線形/雙線形操作子を最適化し、増量計算効率を向上
ストリームシステムの実裝
クエリプランの変換
クエリプランをテーブルからストリーム処理に変換し、積分と微分操作子を適用して増量計算を実現
CallSiteフレームワーク
SQLの検証、型チェック、最適化をサポートし、ストリーム処理を可能に
後端実裝
- Rust後端:DBSライブラリとSQL実行時を連結し、増量計算実行ファイルを生成
- JIT後端:Craneliftフレームワークを基盤にJSON形式のアセンブリ言語を生成
テストと検証
テスト方法
- CIC Test:700萬件のランダムクエリを生成して検証
- PostgreSQL Regression Test:240件のSQLテストケースを移植
- 反転テスト(SQL→関係表現→SQL)でバグを検出・修正
- テストスイートの自動実行をサポート
テスト結果
ストリームシステムとデータベースの関係
データベースのストリーム処理としての位置づけ
- データベースはトランザクションストリームの積分結果であり、トランザクションが変更単位
- 増量ビュー保守システムは本質的にストリームシステムであり、すべてのSQLクエリの増量実裝をサポート
クエリプランの最適化
- 各操作子を増量バージョンに置き換え、時間複雑度が変更量に比例する計算を実現
技術的課題と解決策
変更粒度の問題
- トランザクションを変更単位として、イベントよりも一般的な設計
- トランザクションビューは変更の原子性を保証し、Flinkなどのシステムの不一致問題を解決
大規模変更の処理
- 変更規模がデータベース規模に近い場合、計算量を伝統的メソッドと同等に保つ
- 比例最適化により、効率を確保
ストリーム処理の抽象モデル
- Zセット(Z-Set):
- ストリームをZセットとして扱い、積分でテーブルに変換
- Upsert操作と主キーを組み合わせて、データの更新と削除を原子的に実現
- 例:削除操作はストリーム積分でテーブルを生成し、主キーで検索後、負の重みでマーク
- 増量計算メカニズム:
- すべての変更の合計が現在のテーブル狀態を表し、SQLクエリ操作をサポート
- 増量計算の効率は変更規模とデータベース規模の比率に依存
分佈型処理と拡張性
データフロー図(Data Flow Graph)
- クエリプランをデータフロー図に変換し、水平拡張(Scale-Out)をサポート
- 現在の実裝はマルチスレッドとデータパーティションをサポート
データ分佈戦略
- 選択(Selection)や投影(Projection)は並列処理可能
- 結合(Join)はキー値ハッシュパーティションでデータ一貫性を確保
大規模変更の処理
- 変更規模がデータベース規模に近い場合、計算量を伝統的メソッドと同等に保つ
- 比例最適化により、効率を確保
CDC/Binlogとの関係
Binlogの応用
- Binlogはデータベース複製と変更追跡に使用され、CDCシステムはBinlogを解析して変更情報を抽出
- 本文ではBinlogをストリーム変更の出力方法として強調し、新しい方法は提案していない
ビュー保守の統合
- データベースはストリーム変更インターフェースを內蔵し、ビューの増量更新とクエリをサポート
技術的ポイント
- ストリームとテーブルの変換:
- ストリームの積分操作でストリームをテーブルに変換
- Upsert操作と主キーでデータ更新と削除を原子的に実現
- 変更規模の影響:
- 小規模変更は伝統的メソッドより効率的
- 大規模変更は計算量を伝統的メソッドと同等に保つ
- 例:検索インデックス更新(10,000語)や製品価格調整(複數ビュー更新)の特殊な処理
- 分佈型アーキテクチャ設計:
- ハッシュパーティションとデータ交換(Exchange)で並列処理をサポート
- 結合操作はキー値ハッシュパーティションでデータ一貫性を確保
- 増量計算の最適化:
- 増量計算の効率は変更規模とデータベース規模の比率に依存
- 伝統的メソッドと同様の計算量を保ち、速度向上を実現
課題と解決策
- 非原子変更問題:
- Flinkなどのシステムは変更の原子性が不足し、クエリ結果の不一致(例:口座殘高計算誤り)を引き起こす
- トランザクションビューは変更範囲を明確にし、この問題を解決
- 大規模変更処理:
- 変更規模がデータベース規模に近い場合、計算量を伝統的メソッドと同等に保つ
- 比例最適化により、効率を確保
- ストリームとデータベースの統合:
- データベースはストリーム変更インターフェースを內蔵し、ビューの増量更新とクエリをサポート
結論
ストリーミング処理とデータベースの統合は、リアルタイム性と効率性を実現するための重要な技術です。Apache Calciteを用いたZセットモデルとDbsp言語の活用により、増量ビュー保守が可能となり、大規模データ処理において高い性能と拡張性を提供します。今後は、ストリーム変更フォーマットの標準化や、データベースサービスによる継続的変更通知の導入が期待されます。